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書評 「権威主義の正体」未知への不安に漬け込む人心掌握術

 

権威主義の正体 (PHP新書)

権威主義の正体 (PHP新書)

 

 

権威主義に関して、第二次世界大戦後に社会心理学を中心に研究が進められてきた。多数の哲学者や学者を輩出してきた当時、世界で最も理性的な国とも言えるドイツが、なぜホロコーストのような野蛮な行動に及んだか、これを解明するためだ。近代ヨーロッパでは人間の理性は神から与えられたものであり、その理性に従えば、世界はより良くなるという思想があったが、ドイツの蛮行はその楽観的な考えに大きな衝撃を与えた。

 

それを解き明かすために、多くの心理学実験が行われたが、その中でも身の毛がよだったのが、ミルグラムの実験だ。この実験は被験者に電気ショックを与えるつまみを渡し、ガラス越しに見える人間がテストの解答を間違えた際に、罰としてショックを与えるというものだ。しかも、間違えるごとに電圧を上げていかなければならない。安心してもらいたいのはガラス越しの人間は実験関係者で、実際に電気が流れるわけではなく、その演技をするだけだ。何問か間違えて、電圧が上がってくると、ガラス越しの人間は頭を激しく降ったり、身をよだたせ、危険な状態になる。被験者が電気ショックをためらうと、横にいる監督官が「スイッチを押してください。」「押さなければ、実験を終えることができません。」「スイッチを押すしか選択肢はないのです。」と迫る。恐ろしいのは、被験者の内、70%が自責の念に囚われながら、苦しむ人間に対して最終的にスイッチを押したという事実だ。半数以上の人間が良心よりも服従を選んでしまったのだ。哲学者サルトルは、戦争に加担したものは、そうさせられたとはいえ、最終的に自らの自由で選んだといっている。本当に嫌だったら、殺されるのを覚悟で革命を起こすか、自殺をするかできただろうと。

 

サルトルの意見は極端だとしても、ミルグラムの実験は私たちに示唆を与えてくれる。それは、人間は未知の事象に関して、人の意見を聞き入れやすいということだ。実験を素人判断で止めるには勇気がいる。監督官がそう促すなら、彼の判断に任せてしまおうという感情だ。たとえ監督官でなくても、自分以外の大多数が自分と違う意見を持つと、自分の意見に自信が持てなくなる。この未知への怖れを利用すれば、人間は案外簡単に操作できる。この事実を知った者は、その力を元に自らの地盤を固め、その行動を増長させていく。この事を示す牧師マルチンメーラーの言葉を最後に記す。

 

なぜナチスを阻止できなかったのか-マルチン・ニーメラー牧師の告白-
 
ナチス共産主義者を攻撃したとき、自分はすこし不安であったが、とにかく自分は共産主義者でなかった。だからなにも行動にでなかった。次にナチス社会主義者を攻撃した。自分はさらに不安を感じたが、社会主義者でなかったから何も行動にでなかった。
それからナチスは学校、新聞、ユダヤ人等をどんどん攻撃し、自分はそのたびにいつも不安をましたが、それでもなお行動にでることはなかった。それからナチスは教会を攻撃した。自分は牧師であった。だからたって行動にでたが、そのときはすでにおそかった。